破風に水文字[2020年10月6日・11月19日]

破風に水文字

1980年野外活動研究会刊「フィールドへ No6 君ヶ畑」には、茅葺き屋根の葺き替えの様子や茅葺き屋根の上にトタンを被せる骨組み工事の写真などが掲載されている。当時は入母屋茅葺きは15軒あったが、現在そのうち3軒は無くなり残りは全てトタンを被せてあり、茅葺きの屋根は無くなっている。
現在君ヶ畑には入母屋茅葺きの上にトタンを被せた家が28軒ある。トタンは亜鉛めっき鋼板のうち、主に建築資材として使われているものの俗称で亜鉛鉄板とも言われ、瓦型にプレスされたトタン板もある。金属屋根の種類は、主にトタン、ガルバリウム鋼板、ステンレス、銅、チタンなどがある。ガルバリウム鋼板とはアルミニウム・亜鉛合金めっき鋼板の名称でアルミニウム55%、亜鉛43.4%、シリコン1.6%の鋼板でGL鋼板とも呼ばれ1972年にアメリカ開発され、日本では1982年に初めて商品化された。
現在トタンは使用されることが少なくなり、耐用年数の長いガルバリウム鋼板が多い。年代から考えて君ヶ畑はトタンが多いと思われるが、トタンとガルバリウム鋼板は外観では見分けられない。

破風に「水」の文字』で説明しているが、君ヶ畑の茅葺きの上にトタンを被せた家の破風にも、火伏せのまじないである水文字や懸魚そして家紋が見られる。それらの組み合わせは色々で、多い順では次のようになっているが、水文字は鬼瓦部分にある場合も含めている。
【1】水文字・家紋・懸魚 7軒
【2】水文字・家紋 6軒
【3】水文字・懸魚 5軒
【3】水文字のみ 5軒
【5】家紋・懸魚 3軒
【6】家紋のみ 1軒
【6】懸魚のみ 1軒

破風に「水」の文字

茅葺きの破風-003

茅葺きにトタンを被せた家を記録していると、破風に水という文字の書いてある家が多い。彦根市では茅葺き以外の民家でも時々見かけるが、以前住んでいた名古屋市近辺では見なかったので気になっていた。調べてみると関西方面にはよくあるようで、滋賀県は特に多いようだ。

小椋谷の君ヶ畑の写真を調べてみると、破風に家紋の場合もあるが多くの家に水の文字があった。これまで気が付いてはいたけれど、何となく屋号のようなものかなと漠然と思っていた。調べてみると瓦に水の文字があるのと同じ様に、火災から建物を守る火伏せのまじないとして入れているようだ。その由来は庶民には許されなかった懸魚(げぎょ)の代わりに水と言う文字を描くことで火伏せのまじないとしたようで、江戸時代末期に始まり明治の頃に定着したらしい。

懸魚とは神社やお寺などの破風板部分に彫刻を施し取り付けられた妻飾りの事で、もともと中国で水と関わりの深い魚を屋根に懸けることによって、火に弱い木造の建物を火災から守るために火伏せのまじないとして取り付けた事による。中国では垂魚とも呼ばれ雲南省には魚の形をした板を屋根に懸ける風習が残っているらしいが、日本では様々な意匠をこらした装飾的なものとなっている。懸魚はもともと寺社や城の建築のみに使われていたが、江戸時代には武家屋敷や庄屋クラスの民家にも付けられることが許されるようになり、明治以降は一部民家の建築でも使われるようになった。機能的には屋根の両端の瓦のない部分や、棟木や桁の端などを隠して雨風から守る意味もある。

彦根市の社寺にある懸魚
彦根市の民家に破風にある「水」の文字

これまで撮影した茅葺きの破風には色々なタイプがある。トタンを被せた屋根では水の文字や家紋、懸魚もあった。茅葺きが残っている家では、文字などは無く前垂れと呼ばれる葭などを竹で押さえた棟端飾りが残っている。これまで記録した12戸のうち水の文字があるのは6戸だった。また懸魚は4戸に付いていて、1戸は懸魚、家紋、水の文字と三つ揃っている。