真野康洸展「スケッチから日本画へ」

真野康洸展

真野康洸さんの個展「スケッチから日本画へ」が米原市柏原にある「西町街道文化交流館 六十(ろっそ)」で11月1日から5日まで開かれた。米原市柏原は、江戸時代に中山道柏原宿として賑わった宿場町で、5日にギャラリートークがあったので参加してきた。

真野さんは彦根市在住の日本画家で、茅葺きにトタンを被せた家を所有していて、それの撮影をお願いした際に知り合った。廃屋を長年題材にしていて「やがて、長年誰かが賑やかに住んでいた家には誰もいなくなり、寒空の中にポツンと残される。残された廃屋を見ると、私は人間の生涯と同じように感じる。最期の姿を絵画として表現し、家に感謝の気持ちを込めて見送りたい。」と絵に対する想いを述べている。私にも同じような感慨があり、描かれた絵には親しみを感じる。

主に滋賀県の北部方面でスケッチする事が多く、現地の空気感を大切にして、その場での仕上げにこだわり大体6時間位かけるそうだ。寒い時のスケッチでは筆洗の水や筆先が凍ってしまい描くことができずに、一週間後に改めて仕上げに行った事もあったそうだ。
今回の個展は、現地で描き上げたスケッチと、後日スケッチをもとに日本画として仕上げたものを並べて展示している。スケッチだけでも完成度が高くて作品として成立しているが、スケッチと日本画のちょっとした違いや、雰囲気などが比較出来て面白い企画となっていた。

ギャラリートークは、風林舎ふもと編集室三田村圭造さんの挨拶で始まった。三田村さんは「ふもと」という伊吹山麓に息づく手仕事、歴史、文化などを紹介する地域情報誌を発行されている。真野さんは制作に関する事や、スケッチに行った時のエピソードなどを話された。参加者からは日本画の技法についての質問も多くあったが、丁寧に答えられていた。
私は絵の周りが暗く沈んいる事に付いて質問したが、レンブラントの光と影のようなイメージがあり、肖像画のように描いていると言うお答えだった。

地棟飾り

名古屋から彦根に引越してから4年になるが、木造住宅の妻壁に水という文字が書いてあったりする飾りのような物を多く見かける。それが地棟飾りと言うのを知ったのは最近の事である。
名古屋では見た記憶がなかったので、先日行った時に古い町並みが残る西区の四間道を歩いてみたがやはり見つける事はできなかった。帰ってからパソコンで岩倉街道沿いの西区中小田井周辺をストリートビューで調べてみると数軒あるのを確認できたが、水と言う文字は無かった。その辺りは以前歩いたことがあるけれど、自分が興味のある物しか記憶には残らないのだなと再認識した。

地棟とは棟木の下に棟と平行に架かる太い横架材で、地棟梁とも言う。木造住宅の伝統構法で使用される部材で、曲げ強度のある松の丸太が使用される。屋根の積雪荷重などを建物全体に分散させる効果もあるが、近年は良質の地松(国産の松)が少なく高価な事や、伝統構法で作る家も少なくなっているために新しい家で見る事はほとんどない。
地棟飾りや妻壁の意匠は大工さんや工務店によって特徴があるとの事で、同じ地域ではよく似たデザインのものをよく見かける。同業者はその部分のデザインをみると、どこが作ったか分かるらしい。

地棟の妻壁から出た木口部分の9割近くは保護の為にトタンでカバーし塗装している。中には木口が見える様に前面を透明な材料で覆っていたりする。それ以外は木口をそのままで塗装するか、木の板や漆喰などで保護している。
現在合計70件ほど調べたが、トタンで被せたものを主な形で分けると、八角形と駒形の二通りになり数はほぼ半々である。色は四分の三は茶で白との二色が多く、次に多いのは黒で青や緑が各1戸あった。八角形は四角の角を面取りしたものも含むが、丸太をカバーしているので縦横は同寸のようだ。駒形の半分は上部を屋根状にして家の形の様になっている。またカバーの半分には何らかの装飾が施してあり、火伏のまじないで水文字を入れているのは全体では四分の一あった。

また漆喰で作った地棟飾りを2戸見つけた。土蔵などにある円形の鏝絵(こてえ)は丑鼻(長野県の左官用語)と呼ばれているが、地棟飾りの一種のようである。ネットで調べると丑鼻は長野県に多くあり、富山、京都、山梨などにもあるようだ。

地棟は棟に平行して端は両側の妻壁に出ている事が多いが、全体の三分の一位は片側のみしか確認できなかった。また地棟端が壁から出ている位置は、地棟が棟木の真下にある場合は中央になるので自然な気がするが、四分の一位は中央から少し外れている。部屋の間取りなど関係するようだが、個別の理由はよく分からない。
そして地棟飾りはほとんど2階建の2階部分だけにあるが、1階にもある家が4戸あった。2階部分にあるものは地棟で1階部分の梁は地棟と呼ばないかも知れないが、木口をカバーしている物はここでは地棟飾りとしている。

妻部分にある飾りを全般的には妻飾りと言うが、日本建築の城郭や社寺などでは古くから妻飾りを色々と施している。以前茅葺の妻飾りについて調べると、水文字、懸魚、家紋や屋号などがあった。また最近建てられた洋風の住宅にも、文字などをデザインした鋳物製の妻飾りがある家を所々で見かける。
彦根以外でも湖東地方には地棟飾りが数多くあるようなので、今後も観察と収集を続けていこうと思っている。