髙松御所 文化財公開と講演

髙松御所文化財公開

10月23日に東近江市君ヶ畑町の髙松御所金龍寺にて、君ヶ畑町自治会と木地師のふるさと髙松会の主催で滋賀県指定文化財公開と「木地師のふるさと交流館」一周年記念講演が行われた。

記念講演は、近江の文学研究家いかいゆり子氏が『近江のかくれ里』ー白州正子の世界を旅する 木地師の村ーというタイトルで髙松御所金龍寺境内にて行われ、参加者は30名ほどであった。

文化財公開は君ヶ畑の自治会が保護管理している文化財を年一度の虫干しに合わせて公開する行事で、コロナウィルスの影響などで3年ぶりの開催となった。昨年の虫干しの様子は「君ヶ畑 文化財の虫干し」として記録しているが、その日は生憎の雨模様だったので早めに終了し仏涅槃図など出されていない物もあった。
今回は天気にも恵まれたので昨年よりも多くの文化財が出されていた。滋賀県が指定した有形民俗文化財である木地屋氏子狩帳や、今年新たに東近江市指定有形文化財に指定された江戸時代後期の能衣装とされる淡茶地草花文様錦狩衣や、昨年撮影した室町後期~江戸中期の能面6面も展示されていた。

木地師文化フォーラム

滋賀県東近江市は木地師のふるさとして全国に発信する事業を行っていて、2022年7月18日に愛東コミュニティセンターで「木地師文化フォーラム」が開かれた。フォーラムは今回が4回目で3年ぶりの開催となる。また9月18日に東京上野で市主催の「木地師シンポジウム」が開かれる。
市公式Facebook「木地師のふるさと 東近江市」の告知で「このフォーラムは、ろくろを用いて椀や盆などの木地を作る職人である木地師が育んだ木の温もりの文化、漆工芸の文化への理解をより一層深め、全国各地とのネットワークを深めることを目指しています。」とあり、取材している木地師のふるさと君ヶ畑との関係もあるので参加してみた。

【プログラム】
第一部 講話
「木地師文化を育んだ東近江の森林」
森林総合研究所 山下 直子
アジア猛禽類ネットワーク 山﨑 亨

お二人で重複する部分もあったが「木地師文化を育んだ東近江の森林」をテーマに、山下さんは主に森林について、山﨑さんは植物と動物について、それぞれの視点から東近江の木地師発祥の地である鈴鹿山系にある小椋谷やその周辺についての講話だった。
木地師のふるさとである鈴鹿の森は東日本と西日本、日本海側気候と太平洋側気候が接する地域にあり、東近江市は鈴鹿の山々から琵琶湖まで続く豊かな自然がある。鈴鹿の奥山の冷温帯域に出現する落葉広葉樹林や、多種多様な植物や野生動物などが木地師の営みを支えた事など短い時間ではあったが資料を使い分かりやすく解説されてた。

第二部 講演
「漆に魅せられて」
漆作家/木地師 スザーン・ロス

石川県輪島市で漆作家・木地師として活動するスザーン・ロスさんは、イギリスのロンドン出身で若い頃に漆に魅せられて、漆の技術を身につけようと来日した。その後輪島で漆の勉強をして、現在は作家として活動しながら漆の魅力を海外などにも発信している。
講演では漆に魅せられて来日した後の技術を習得するまでの苦労話、輪島では川沿いの古い民家を自分たちで修繕したり改造して住んでいる事、その家での自然に囲まれた生活ぶりなどを聞くことが出来た。
そして縄文時代から続く漆の歴史や、漆の生産から輪島塗の制作工程などについても詳しく説明されていた。また国内での漆の生産が現在危機的な状況にある事や、漆や漆製品について今後の提案などもあり、熱くて中身の濃い内容の講演だった。

第三部 対談
漆作家/木地師 スザーン・ロス
木地師 北野 宏和
コーディネーター 筒井 正(東近江市参与)

「木地師文化と漆工芸の現在と展望」というテーマでスザーン・ロスさんと蛭谷で木地師の仕事をしている北野さんの対談があった。コーディネーターは小椋谷の永源寺町茨川出身で東近江市参与の筒井さん。
木地師や漆の仕事は、プラスチック製品が大量に出回る現在は継続が難しい職種であり今後については多くの困難がある。スザーン・ロスさんは漆製品や木製品を使うと生活の質が豊かになる事を説明し、漆が絶えないように応援するには「皆さん漆製品を買って使って下さい!」と会場に人達に呼びかけていた。
北野さんは木地師の仕事を若い人たちが始めたり、生活を続けられるような環境作りをしていきたいと抱負を語っていた。